萌木の村 村民かわら版

八ヶ岳・清里高原「萌木の村」のスタッフが綴る季節ごとの村の表情や、個性あふれる各店舗のあれこれです。
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マンスリー上次さん 6月号

joji.jpg 私たちは今回の大震災で被災され避難所で苦しんでいる方々にほんのひと時でも楽しんでもらいたいと、「ポール・ラッシュ ドリームプロジェクト」という企画を立ち上げました。大きな自動演奏楽器でバレエ音楽を演奏し、バレエダンサーがそれに合わせて踊るミニバレエ公演を東北地方の20か所以上で上演する企画です。私がこの企画を思い立ったのは4月4日のことです。それまで私は清里の若者たちが震災後すぐに飛び出していく姿を見ていました。フィールドバレエを手伝ってくれている大工さんたちも大工道具を持って被災地を訪れていました。そして私たちに熱く現状を話してくれました。地震と津波の直後はいたるところで孤立した状態が起こりました。電気も電話も通じない状態です。そして非常に寒い季節でした。すべてを流された人々は近くの高台で余震と暗闇におびえながら数日を過ごしました。その時は水やおにぎりが必要でした。そして、時間と共に必要なものが変わってきたのです。毛布や食料が行き届くようになると嗜好品が欲しくなります。そして今は心のケアが必要になってきているのです。これは現地の友人が教えてくれたことです。この友人の話を聞いたとき、今自分がやるべきことはこれしかないと思いバレエシャンブルウェストの今村先生に電話をかけました。先生方はこんな非常事態の時に自分たちがしてきたことがお役に立つのであればこんな嬉しいことはないと言ってくださいました。計画は4トントラックに自動演奏オルガン「ポール・ラッシュ」を載せ、2トントラックに舞台道具を積み、ワゴン車で人を運ぶというものです。また、上演場所については私の多くの知人に声をかけて協力を仰ぎました。すると皆さん迅速に協力してくださりスケジュールはすぐ一杯になりました。そして避難所のリーダーの方への連絡・許可、所有者への承諾、場所確保、宿泊、食事手配などはスタッフが見事に対応してくれました。そして5月11日に清里を出発し、岩手県宮古市に入りその後宮城県、福島県と移動しております。ステージを見て下さった多くの方に何かを手渡す事ができたと思っています。

そして、このツアーはまだ終わっていませんが、私はこんなことを感じました。今回の災害で東北の方々は多くの物を失ってしまいました。私達が想像する以上の大きな、たくさんの、重みのある “もの”を失ったのです。一人一人それぞれ違う、それぞれに大切なものです。でも(私はこんな時にこんなことを言うのは不謹慎かもしれませんが)被災された方々はとても大きな物を手に入れていると思うのです。きっと今は気づかないかもしれません。それは見えないものです。思いやり、助け合い、命の大切さ、感謝の気持ち、苦難に立ち向かう力強い心といったものです。そして今世界で一番大切なこと、必要なものがまさにこのような心なのです。このような心が個人の哲学とか価値観を形成するからです。小学校でのバレエ公演は皆明るくて、どこにでもある風景でした。しかし生徒たちは友達や親や兄弟を亡くした子もいました。普通に拍手をして笑顔を見せてくれますが、心の中は尋常ではないはずです。私は思うのです。こんな経験をした子供たちの中から、将来日本を背負って立つリーダーが生まれるのだと。

私たちは戦後、平和ボケして自分の事しか考えず、経済的な物差しでしか考えなくなってしまいました。今回のツアーの中できのみ、きのままで逃げて助かったというおばあちゃんに話を聞きました。一回目の津波が来たときはまだ家は壊されていなかったそうです。「津波は一回では終わらない、二度三度と押し寄せるので絶対海に近づいてはいけない」という昔からの言い伝えがあるそうです。おばあちゃんは津波を恐れて家には近づかなかったのです。でも、その時にお金とか大切なものを取りに家に帰った人は第二波にのまれてしまったそうです。何より大切な物は命であって、お金や物ではないはずです。平和に慣れすぎて命を奪われる危険性を感じ取れなかったのかもしれません。また、住んではいけないと言われた所に経済的にメリットがあるというだけで施設を作り、そして今回の津波ですべてを失ったという場所もありました。我々は今回の災害から多くの事を学ばなくてはいけません。これだけの犠牲を出したわけですから。皆のしてきたことが間違っていたわけですから。

これからの我々は日本人として新しい共通の価値観を持つべきでしょう。ただし、それぞれの地域ならではの価値観を持つべきです。清里にはポール・ラッシュ先生が残してくれた言葉がいっぱいあります。そこにこれから私たちが生きていくうえで重要な考え方が隠されているように思います。ポール・ラッシュ ドリームプロジェクトは6月4日まで続けられ、宮城県、福島県と回っていきます。多くの人と語り、あらゆる方向から物事を見つめられ、そして考え方が決してぶれない人間になる事が、地域に対しても会社に対しても、そして日本に対しても私の責任だと思います。

※私が価値観と頻繁に使いますが、一言でいいますと、一番大切な物から始まります。それは見えるものと見えないものがあります。人生の中で人はそれぞれの時に判断します。YESかNOか、前進かストップか、自分の価値がはっきりしている人は迷いません。迷うという事は相対する考え方がない時に惑うわけです。地域にはその地域内で共通の価値感がなければいけません。日本人には日本人としての共通の価値観がなければならないと思うのです。一人の人間の中には自分としての価値観、家族としての価値観、会社としての価値観、地域としての価値観、日本人としての価値観があります。そしてそれぞれの価値観を感じながら自分の中でバランスをとって物事を判断していくことだと私は考えます。そこには義務も責任もあります。そのことを守った人に自由が権利として与えられるのだと思います。山梨では、と考えると、きれいな水、自然景観、素敵な田舎感という共通の価値観だと思うのです。これらのものを失うことなく、少しずつ進化させていくことが大切なことではないでしょうか。
上次さんの気持ち
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