萌木の村 村民かわら版

八ヶ岳・清里高原「萌木の村」のスタッフが綴る季節ごとの村の表情や、個性あふれる各店舗のあれこれです。
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マンスリー上次さん 号外

ウィスキーを通して世の中を見ると ~スーパーマンの独り言~

 3年前までウィスキーの知識がなかった私が一人のバーテンダーと出会い、ホテルにバーができた。地元に白州蒸留所があり、その施設は世界一だ。そんな地元のウィスキーである白州を中心にバリエーションが広がっていった。「素敵なバーを作りたい」と思いサントリーの全商品を取り揃える。次にシングルモルトの多いスコッチ集める。ボウモア(ゴールド・ブラック・ホワイト)、ハイランドパークの40年物、マッカランの各種などを相当集めた。集め始めるとウィスキーの値段が1カ月ごとに、いや、1日ごとに上がり出していることに気がついた。何が起こっているのか?
 日本ではウィスキーは売れない。地方では焼酎やビールが売れ、ウィスキーはほとんど売れないと酒屋さんは言う。だが、限定で販売されているものはあっという間に市場から消える。マルスの3プラス25、白州の25年、響きの30年、山崎の25年、竹鶴の35年。どこを捜しても売り切れだ。昨日まで売っていた物にまでプレミアがつく。そんな中、私は日本のウィスキーの終売品の価値が見直されている事に気がつく。10年前まで日本のウィスキーの評価はスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダに次ぐ5番目だったようだ。しかし、ここ数年で日本のウィスキーの評価はものすごく高くなっている。そしてその価値がうなぎ登りに上昇している。サントリー、ニッカだけでなく、キリンシーグラム、メルシャン、マルス、イチローズのすべてが物不足になっている。それはインド・中国が経済的成長により日本を抜いてウィスキーの輸入国大国となったからだ。5年ほど前に古酒の買い取り業者が地方の酒屋さんからほとんど古酒を買い占めてしまった。また酒の販売免許が出やすくなってしまった為、酒屋さんは90%と言っていいほど廃業に追い込まれた。そんな状況のなか、奇跡的に私は日本の名酒を入手する事が出来た。

 サントリー【ザ・ウィスキー、インペリアル、エクセレンス、一八九九、プレステージ】  
 ニッカ【キングスランンド、鶴、フォーチュン’80、グランドエイジ、ザブレンド】
 キリンシーグラム【サタデー1・2、エンブレム、クレセント、ロバートブラウン】
 メルシャン【軽井沢25、浅間】、三楽オーシャン【オーシャン、シップボトル】
 マルス各種など

 たくさんの酒屋さんが力を貸してくれた。都会ではまず集める事は難しいと思う。実は都会と地方には大きなギャップがある。都会では日本のこうした古酒にプレミアが付き、発売価格の2倍、3倍、ものによっては5倍もの価値がつく。そしてすぐに市場から消える。しかし、地方ではウィスキー離れが進みほとんど売れなくなった。だから地方の人は価値の減った不良在庫だと思っている。オルゴールでも全く同じ事が言える。オルゴールの情報を持っていない人にとっては、古いオルゴール、まして故障でもしていれば扱いにくいただのゴミでしかない。しかし、コレクターにとっては数百万、数千万する宝物でもある。
 ここのところ田舎、特に私共の住んでいる八ヶ岳はすごい場所だと思うようになってきた。景観もそうだが、水の恵み、森の豊かさ、空気のうまさ、星空の美しさ、四季の移り変わり、夏の過ごしやすさ、野菜の新鮮さ。数え上げれば次から次へとこの地の宝物でいっぱいになる。都会でその一つでも手に入れようと思ったならいったいどのくらいのお金が必要になるだろうか…。
 しかし、残念ながらこの地に住む多くの人達はそんなたくさんの財産を持っている事を認識していない。だからいつも地元の人はその財産を生かしきれず、地元以外の人が大規模な開発を始める。日本のリゾート地で大きな施設・ホテルの経営者はほとんど地元の人ではない。八ヶ岳のホテルにしてもリゾナーレ、大和ロイヤル、ダイヤモンド、海の口八ヶ岳高原などすべてが外からの進出企業だ。知識と戦略が有るか無いかの差だけだ。世の中は考える人の下に考えられない人がつく。価値を決められる人の下に価値を決められない人が従う。ウィスキーも全く同じだ。1993年に2万円で発売されたサントリープレステージ25年というウィスキーがあるが、今は幻の1本だ。市場に出たら数倍の値段になる。そんな幻のウィスキーが地方に眠っている。それも「まさか」というような地方の酒屋さんにあるのだ。私が訪ねた酒屋さんのうち、今年、昨年で店を閉じてしまった人達が何人かいる。店を閉じた時に地域の人たちに古酒をあげたり、飲んだりしたそうだ。多くの人はその古酒の価値を知らずに飲んでしまっているのだ。もったいない。都会では特別な棚に丁寧に説明が書かれ扱われている一本。しかし地方では埃だらけになり、棚の奥で邪魔もののように置かれている一本。価値を知っている人に見つけられれば生かされるのだろうが、知らなければいつか消えていくのでしょう。宝物は大きな酒屋さん、町中の酒屋さん、便利な場所の酒屋さんにはほとんどない。昔からの酒屋さんをしていた限界集落のような「まさか」という所にある。田舎の人は何もないと思うのではなく、地方に住む私達の周りには、たくさんの宝物が山積みになっている事に気がついて欲しい。ウィスキー一つをとってみてもそうなのだから、他の物もまた同じだ。
 私は田舎のウィスキーという宝物を通してホテルの中に素敵なバーを作った。先日、土屋守さんと輿水精一さんがそのバーで対談した。土屋さんは世界で5人の中に入るウィスキー評論家だ。輿水さんは日本のウィスキーを世界レベルに持ち上げたサントリーのチーフブレンダーである。現在、日本のBIG2と言っても過言ではないお二人だ。そんな二人が私共の集めた古いウィスキーを見て感動していた。「どうして?」「どこで集めたのか?」それは私が田舎で育って田舎の宝物を他の人よりほんの少し知っていたからだと思う。そして里山に住む人達、私達はあふれんばかりの宝物に囲まれ、最高の環境があるのだということに気がついてほしい。
(舩木 上次)
上次さんの気持ち
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