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マンスリー上次さん 2017年1月号

TOPICS | 17.01.01

あけましておめでとうございます。2017年は最高の年にするぞ!

 

昨年、神様は私を試すように多くの試練を与えてくれました。世界の舞姫と言われるニーナ・アナニアシヴィリさんを招聘しての第27回清里フィールドバレエ。彼女が出演するのは8月2日・3日の特別プログラム。清里フィールドバレエ始まって以来のバレエ界のスーパースターの舞台。8月1日の休演日に準備した大切なリハーサルはなんと雨で中止。その時私は逆に「ついてる」と思いました。「休演日が雨なら明日からの本番はバッチリ晴れるぞ」と思ったからです。しかし、迎えた8月2日はなんとこの夏一番の大雨。広場の中を雨水が川のように流れ、会場はめちゃくちゃ。翌8月3日は朝から荒れはてた会場整備に追われ本番を待ちます。曇天の下、開演のベルが鳴り始りました。しかし、楽屋で出番を待つニーナさんが舞台に立つことはありませんでした。彼女の出番の前に無情にも雨が降り始めたのです。一時中断、しかし雨は強くなるばかり。もうこれ以上お客様を雨の中で待たせるわけにはいかない。雨の舞台上からニーナさん、今村監督、そして私と皆さんにお詫びの挨拶。ついに彼女は一度も舞台で舞うことなく帰国の途についたのです。

 

そしてバレエ公演期間中の8月8日未明、午前2時半に電話で呼び起こされました。「ロックが燃えている」「うそだろ?!」慌てて服を着て現場へ。ロックの北側から燃え広がる炎。「消防車、早く来てくれ」と願う私、その時は「消火が始まれば北側だけで止められる」と思っていました。消防車が到着、放水。しかし、火の手は収まらず南へ南へと進む中、私はただただそこで見守るだけ、私にとっては地獄のような4時間でした。結果は全焼。「もうダメだ、すべて失った」「この搔き入れ時の8月に、しかもトップシーズンのお盆を控えたこれからという時に」燃えている火の中に「飛び込もう」と何回か思いました。警察の取調べ、消防の取調べ、長い長い一日でした。

 

バレエ公演は9日、10日と2回を残していました。「必死でできることはやります」と宣言、自分自身を叱咤する言葉でもありました。9日のバレエ公演の後、舞台上から「がんばれ上次」のダンサーたち全員によるコール、涙涙の私でした。9日と10日は本当にたくさんの皆様が駆けつけて下さり、最高の舞台、エネルギーの大爆発、希望の力をいただきました。そして無事に清里フィールドバレエは終了することができました。

 

バレエダンサーや関係者は東京に帰り、残された私達は、焼けた現場と何も出来ない虚無の時間に、地獄のような日々を送らなければなりませんでした。しかしその時、東北の大震災を応援に行った時の光景がふと頭に浮かびました。「今の私よりもっと大変な状況の中で東北の人たちは頑張っていた。それに比べたら俺ははるかにましだ」「そして何より人災がなかった。スタッフに怪我もなかったし、ホテルへの飛び火もなかった、山火事にもならなかった。ついていたのではないか」と思うようになりました。失った物ばかりだと思っていたが「運が良かったのではないか」と思うようになってから、少しずつ手に入れた物の方が大きいのではないかと思うようになりました。

 

ロックのスタッフは27年間のバレエ公演でいつも店番、バレエの本番舞台を見たことはありませんでした。火事の次の日、9日のステージを全員で観ました。スタッフとも話す時間が多くなりました。そして日ごとに増える皆様の物心両面の援助、その暖かさに益々勇気づけられ「再建できる」と思うようになりました。絶体絶命からひと筋の糸のような希望、日ごと膨らむ夢。そして12月15日、菅原歓一さんの呼びかけで多くの方が発起人になってくださり、「舩木上次を励ます会」を開催していただきました。全国から東京六本木ハリウッドプラザに集って下さり、すばらしい会が行われました。火災事故が起きなければ、こんな機会は絶対に経験できなかったでしょう。経済的な損失や目に見える物はだいぶ失いましたが、目に見えない宝物をなんと多く手に入れたことか。

 

私は今、夢に満ち溢れています。皆様との絆も以前に増して強くなりました。そして、私の友人の皆さんが私との絆だけでなく横につながり、多くの人が出会い、線だった人の輪が面に広がりました。スタッフも一歩ずつ私と共に育っているような気がします。ピンチの後の大チャンスが訪れようとしています。皆さんと共に今年は最高の一年にします。

 

※新潟糸魚川の大火は自分のことのように悲しい気持ちになりました。私のできることは何か考えさせられます。