依頼を受けて、はじめにどのように感じられましたか。
記念すべき30回目とお聞きし、責任を感じるとともに、白州のモルトのみとしては最も古い30年物への挑戦ということでワクワクしました。
どのような手順でブレンドされたのでしょうか。
15年以上前にテイスティングしたときのメモでは単に「青臭い」としかコメントがなかったのですが、熟成が進み改めてテイスティングしてみると、とりわけフルーティで活き活きとしたウイスキーになっていました。
そこで、フィールドバレエということで華やかに舞うイメージを想い描きつつ、他の原酒との組み合わせを検討していきました。
特にこだわった点や楽しかった点などをお聞かせください。
こういった限定品、しかも高酒齢で数量も少ない場合は、緊張感も高いのですが、それ以上に興味深い仕事になります。
普段、白州モルトの30年ものをテイスティングする機会も限られていますし、今回も思わぬ発見、すなわち先に挙げたフルーティで活き活きとした原酒との出会いがありました。
これを十分に生かしてまさにバレエを舞うようなものになればとブレンドを繰り返したことを覚えています。
酒齢30年以上の白州、わずか15本という限定品が完成していかがでしょうか。
白州モルトの 30年もの。 15本だけの特別なウイスキー。
私たちの想いが上手く届きますように。
喜んでいただけますように。
という感じでしょうか。
貴重な経験をさせていただきました。
こちらはどのように感じ、どう進めていかれたのでしょうか。
ケンタッキー出身のポール・ラッシュ博士にちなみ、バーボン樽で熟成した白州を使用する、とひとまず考えました。いろいろなバーボン樽原酒をチェックしていくと、超濃厚な樽を発見。バーボン樽には珍しいビターオレンジのような風味も備えていました。
これを効果的に使えば、バーボン樽だけでも豊かな表現が出来ると考え、白州らしいスモーキーなバーボン樽原酒を中心に据え、前述の濃厚なバーボン樽白州と伸びの効く味わい豊かなバーボン樽白州で整えていきました。
特にこだわった点や楽しかった点などをお聞かせください。
バーボン樽に限定することで濃厚バーボン樽の発見につながり、新たな原酒との出会いとなりました。
香味を整え深みを出すために通常スパニッシュオーク樽を使うのですが、その代替ともいえる原酒の発見は、今回のブレンドに大いに役立ちました。
バーボン樽熟成モルトだけでつくるウイスキーについてどう思われますか。
頭の中ではある種の限界を感じていましたが、バーボン樽の長期熟成の中に新たな側面を発見。おかげで複雑で濃厚な味わいに仕上げることが出来たと思います。
長期熟成で毎回このような香味を生みだせるかは今後の研究課題ではありますが、ウイスキーの熟成の奥深さを改めて感じた次第です。
ウイスキーバイブル2019にて「Japanese Whisky of the year」に選出された快挙についてどうお感じでしょうか。
最後に、ウイスキー全般への想いをお聞かせください。
ウイスキーの魅力の一つは(あくまで魅力の一つだと思いますが)、美味の発見にあるのではないか。
この二つのウイスキーづくりを改めて振り返りましたが、違った角度で原酒を見に行ったときにこれまで発見できなかった、もしかしたら見過ごしてきたかもしれない魅力を発見できました。
それをブレンドで際立たせ、言葉でもなんとか表現して皆さまに提供させて頂くことで、それを感じて頂ける。体験して頂ける。
これらのウイスキーに限らず、もしかしたらウイスキーファンの方々は、いろいろなウイスキーに対して我々の知らない違った魅力を発見して楽しんでおられるに違いない。
また、その発見に今回のフィールドバレエやポール・ラッシュ博士といったイメージが、あるいはボトルデザインが一役も二役も買っているのではないでしょうか。
飲み方も、こうあるべし、ではなく、さまざまなオケージョンやスタイルで召し上がっていただくことで、新たな発見があると思います。
PROFILE
福與 伸二 ふくよ しんじ
1961年愛知県生まれ。名古屋大学農学部農芸化学科卒業。
1984年サントリー株式会社(当時)に入社。白州ディスティラリー(現在の白州蒸溜所)、ブレンダー室を経て、1996年に渡英。ヘリオットワット大学(エジンバラ)駐在や、モリソンボウモア ディスティラーズ(グラスゴー)への出向勤務の後、2002年帰国。
2003年に主席ブレンダー、2009年にブレンダー室長となり5代目チーフブレンダーに就任。山崎の各種限定シリーズをはじめ、数多くのサントリーウイスキーを手掛けている。